渇望の鬼、欺く狐
 二人が足を進めて、ほんの少し。

 先に気付いたのは幼児の方。



「あ!」


「え?」


「何か動いた!」



 握り合った手を振り解き、駆けていこうとする幼児を、すぐに追いかけた狐。

 立ち止まって辺りを見回す幼児に狐が声をかける前に、幼児はその存在に気付いた。



「雪! 見て! あれ何ー?!」



 興奮気味に訊ねた幼児が指で示した先。

 そこに居たのは、三匹で身を寄せ合う野うさぎだった。

 丁度この場所は結界内の端に位置している。

 という事は、あの野うさぎの居る場所は、境界を僅かに超えた結界外なのだろう。



「……あぁ。お前は見た事なかったか? うさぎだよ」



 普通の生物は、結界内に入る事は不可能。

 そして動物には、本能があるハズだ。

 本能故に鬼が施した結界を恐れる為、普通なら結界に近付く事もしないハズなのに。



 ……あぁ、そういえば。



 そこで狐は、以前自分が手にかけた、一匹の野うさぎの存在を思い出した。 
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