渇望の鬼、欺く狐
「ほら、もう帰んぞ」



 再度狐が、幼児の手を引いたにも関らず。

 幼児はその手に体を引かれぬよう、グっと足に力を込めてしまった。



「……雪ー」


「何、だよ……」


 
 狐を見上げる幼児の目は、強請るような甘えるような。



「……お願いー。ここから見るだけだからー……」



 狐の言葉を詰まらせ、最終的に諦め故の溜息を引き出してしまう物。

 狐が舌打ちをしてしまう理由は、自身の幼児への甘さを実感してしまった為だろう。



「……ちょっとだけだからな」


「うん! ありがとー!」



 狐の返答に幼児は途端、満面の笑みを浮かばせて。

 先程と同様、好奇心に満ちた目を、三匹で体を寄せ合う野うさぎへと向けた。





 


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