渇望の鬼、欺く狐
 暫くは楽しそうに野うさぎを眺めていた幼児だけれど、ふいに隣に立つ狐へと口を開く。



「ねぇ、雪ー」


「あ? もういいのか?」


「違うー。あのね、何であのうさぎだけ小さいのー?」



 そう言いながら、幼児が指を差して示した野うさぎ。

 恐らく子供なのであろう野うさぎは、確かに他の二匹よりも体格が小さい。



「子供なんだろ」


「子供ー?」


「そう。お前と一緒だよ」



 狐が教えてやれば、幼児は嬉しそうに顔を綻ばせて。



「だったら、あっちとあっちは、母ちゃんと雪だー!」



 まるで自分の思い付いた事が、凄い発見だとでも言いたげな口調。

 そんな幼児に思わず笑いながら、狐は首を横に振った。







 
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