渇望の鬼、欺く狐
「それもいいけどな。あの二匹は子うさぎの親だ」


「うん?」


「母ちゃんと父ちゃん。藍と俺だと、母ちゃんと父ちゃんじゃなくなるだろ」


「……父、ちゃん?」



 よくわからない、と幼児の表情が狐へと訴える。

 そこで初めて、狐は幼児が父という存在について、認識がない事に気付いた。



「あぁ、そっか……。お前は父ちゃん居ないもんな……。えぇと……、大体の生物はな、父ちゃんと母ちゃんと子供で家族になるんだ」



 上手い説明など、狐には出来なくて。

 それでも懸命に伝えたつもりだった。

 十割の理解を得る事は出来なくとも、何となくでいいから伝わればいい。

 そんな思いだったように感じられる。



「家族……」



 小さな小さな声。

 呟くように落とされた幼児の声に反応するかのように、狐もまた口を開いた。



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