渇望の鬼、欺く狐
「あ、まぁ、あれだ。別に、母ちゃんと父ちゃんが揃ってなくても、家族にはな……」

 家族にはなれる。


 狐がそこまで言い切る直前。



「雪はー?」



 幼児は疑問を口にする。



「え……?」


「雪には、母ちゃんも父ちゃんも居るのー?」



 言葉を失う狐の脳裏。

 幼児の言葉に、記憶の片鱗が集結して。



「……っ、あ……」



 一度記憶が巻き戻されてしまえば。

 それを再び散らす事は、あまりにも難しかった。

 
 そして狐は思い出す。

 もう思い出す事すらしないでおこうと決めていた、家族の事を。

 辛さを知り、悲しみを知り。

 絶望へと辿り着いた。

 憎しみを覚えた。

 自身の家族の事を。
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