渇望の鬼、欺く狐
 そしてそれは、ある晩の事。

 皆で固まって眠っていたハズなのに、狐は急に寒さを感じたのだ。

 寄り添い合う事で共有している熱が離れていく感触と、ペロリと顔を舐められる感触。

 僅かに目を開けた狐の目に映る顔は、母親の物だった。

 悲しそうに、辛そうに自分を見る母親。

 やがて母親は、最後に一度狐の顔を舌で撫で付けてから、ゆっくりと狐へと背中を向けてしまった。

 母親が向かった先には、父親や兄妹が待機していて。

 母親が辿り着くと同時に、皆は歩いて行ってしまう。

 狐はすぐに体を起こした。



 置いていかないで。



 瞬時に込み上げた思い。

 なのに、声を放つ直前に狐の脳裏を遮る思考は、狐に足を進ませる事すら躊躇わせてしまう物。



 俺は、まともに狩りも出来ない。

 上手く歩く事も、走り続ける事も出来ない。

 いつか。

 否、きっと、すでに。



『……っ』



 俺は、皆にとっての足手纏いなのだろう。
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