渇望の鬼、欺く狐
 悟ってしまえば、狐はそこから足を動かす事が出来なくなってしまった。

 自然の中に居る以上、自分たちは捕食者であり被食者なのだ。

 自分が居る事で、家族まで何らかの動物に、食べられてしまう日だってくるかもしれない。

 最後に見た母親の悲しそうな顔が、狐の頭から離れずに。

 これ以上、皆の足手纏いにならない為に、やはり自分はたった一匹でここに残るべきだろうと、頭の中の冷静な部分が狐へと諭す。

 そうして自分を諭す行為は、とにかく落ち着かなければいけないという、狐の防衛本能だったのかもしれないけれど。



 置いていかないでよ。

 俺だけじゃ、きっと生きていけないよ。

 すぐに食べられちゃうよ。

 そんなの嫌だよ。



 自分を諭しても尚、溢れ出る本音。

 いくら本音をその頭に掲げたところで。

 すでに家族は、行ってしまったのだから。

 溢れ出る狐の本音など、家族に届く事はなかったけれど。


 狐の胸が強く痛みを覚えて。

 痛みの核がどこにあるのかもわからない程、胸全体が締め付けられていく。


 苦しい。

 辛い。


 その感情を覚えながら。

 痛い程の締め付けの中、胸のどこかに穴が空いている感覚すらも感じて。


 淋しい。

 悲しい。


 空虚にも似た、その感情も覚えた。
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