渇望の鬼、欺く狐
 いつしか妖力を更に蓄え、完全な人化を取れるまでになった狐は、ある日人里へ降りる事となる。

 この頃になると、もう自分は他の動物よりも強い自信があったし、覚えた幻術がどこまで通用するのか、試してみたい気持ちもあった。

 人里へ辿り着いた狐。

 擦れ違う人間たちは、誰も自分に見向きもしない。

 それは上手く化けているという確かな証拠でもあったけれど。

 あまりの反応のなさに、それはそれでつまらなくて。

 適当に店の前に立ち寄って、人間たちが身に付ける物を、もう帰ろうかという気持ちを携えながらに見ていた時だった。



『いらっしゃいませ。贈り物用ですか?』



 顔に笑みを貼り付けながらに近寄ってきた人間の男に、狐は首を傾げながらに答えた。



『……贈り物?』


『えぇ、まさか旦那が、かんざしを挿すわけでもないでしょう?』



 冗談交じりに声をかけてくる男に、狐は曖昧に返事をして。

 そして思い付く。



『……贈り物って喜ばれるのか?』



 もし喜ばれる行為だとすれば。

 藍も喜んでくれるだろうか。


 
 期待を含む狐の疑問に、男はやはり笑みを貼り付けながらに口を開いた。

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