渇望の鬼、欺く狐
『ご主人』


『はい』



 狐が考え続ける理由など、そこには見当たらずに。



『少し見て選んでみるよ』



 考え抜いて選んだ、一本のかんざし。

 葉っぱに幻術をかけて金に見せれば、あっさりと買えてしまった。

 この日以来、狐は事ある毎に、かんざしを鬼へと贈り続けて。

 結果、鬼の手元には、たくさんのかんざしが揃う事となる。



 狐は幸せだった。

 鬼と二人きりで過ごす事の出来る時間が、空間が。

 鬼はいつだってつれないけれど、だけど全く優しさがないわけでもない。

 心の底から受け入れる事はしてくれなくとも。

 心の底から拒絶する事もしない。

 甘えさせてくれる。

 擦り寄らせてくれる。

 そうして嗅ぐ匂いは、時間が経てば経つ程に依存性を増して。

 同時に、狐の鬼への執着を強めていった。

 だから余計に。

 鬼が赤子を拾った時、狐は鬼の行動が、自分への裏切りのように感じてしまったのだろう。

 狐は、そうして裏切りを感じても、鬼に憎しみなど抱けなかった。

 鬼は自分を突き放したわけではないから。

 未だ傍に置いてくれるから。

 苛立ちを全て赤子へと向ける事で、保ち続けた心情。

 だけどそれは、狐の中で一つの理解が及んだ時。

 急激に変化を来たしたのだ。
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