渇望の鬼、欺く狐
「今日はちょっと違う用事でね」


「用事……ですか?」


「あぁ。ちょっと、耳寄りな事を聞いたんでね。ご主人の耳には、入れといた方がいいんじゃないかと思って」



 首を傾げる人間の耳元。

 薄茶色の髪を揺らしながら、その者はそっと口元を近付けた。

 誰も居ない店の中。

 警戒しながら、誰にも聞かれたくないと言わんばかりに。



「――――らしいよ?」



 その者が言葉を締めると、先程まで愛想良く笑っていたハズの人間は、目を見開き驚きを露わにしていた。

 揺れる視線からも青ざめていく顔色からも。

 人間の動揺が感じ取れる。

 それを自身の目に映しながら。

 更に、その者は口を開いて見せた。



「ねぇ、ご主人」



 顕著なまでに浮かぶ動揺を煽り。



「――いい事教えてあげようか」



 希望を導くその言葉を伝える為に。
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