渇望の鬼、欺く狐
 その仕草が狐の催促だと気付きながらも、そこまで甘やかす義理はないと狐の体を川へと向ける。



『ほら。好きなだけ飲めばいい』



 伝わるかどうかは別として、そんな声をかけたにも関らず。

 狐はこちらを振り返って、また私の体を前足で叩く。

 そしてまた擦り寄って、媚びるように私の手を舐めて。

 一度諦めを覚えてしまえば、次の諦めに辿り着く事は容易くなってしまうのかもしれない。



『……仕方無いね』



 両手で川の水を掬い、狐へと差し出して。

 狐が水を飲まなくなるまで、何度もその動作を繰り返した。



『もう満足かい?』



 それは私の膝に乗り、寝転ぼうとする狐の姿から見て取れたけれど。

 何となく口に出してしまった言葉で。



『眠たい気持ちもわかるが、お前は少し汚れすぎだ』



 再度川の水を手に掬い、狐の体へと撫で付けた。

 途端、体を強張らせた狐だけれど、危害を加える事をしないと悟ったのだろうか。

 次第に狐からは体の力が抜け落ちて。

 私の膝を降りて、こちらへと背中を向けたのだ。
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