渇望の鬼、欺く狐
 人間の視線が、自身の目へ釘付けになった事を、その者は見逃さなかった。

 全てを話し終えてから、人間が何度も小さく頷く姿を見て、満足気にその者は店を後にする。



「じゃあ、また明日」



 そんな言葉と、残酷とも取れる微笑。



 ……ようやく、この時が来た。



 待ち続けた思いと、昂ぶる心情と共に。


 いつしか空には、暗雲が立ち込めていた。

 それを目にしたその者は、足を急がせ、戻るべき場所へと向かいだす。



 ……あまり遅いと怪しまれる。



 不安を抱きながらも。

 その顔から、微笑が消える事はなかったけれど。

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