渇望の鬼、欺く狐
 ただの子狐にしては、中々頭が良い。

 そんな事を考えながらに、川の水で汚れた体を洗っていけば、徐々にその毛並みは本来の色を取り戻す。

 泥まみれでところどころくすぶっていた、元の色がわからない毛は、薄い茶色だった事を知った。

 体を覆う毛が水を吸ってしまった事で、その毛並みはぺちゃんと寝てしまって。

 それ故に狐の骨格が露わになれば、ただでさえ痩せている体は更にこけて見える。

 胸元の毛にもこびりついていた泥を落とせば、泥の向こうからは白が浮き出てきた。



『これで毛が乾けば、少しはマシな見栄えになると思うんだけどね』



 狐を洗い終えた事に湧き上がる、小さな達成感。

 その達成感は、私の口元を微かにだけ綻ばせてしまうものだった。

 そこからというもの。

 みるみるうちに狐は元気になった。

 私が社に居る間は、扉の前に寝転び。

 私が外に出れば、不恰好な歩き方を曝しながら後を付いてくる。

 川に着けば、私に水を催促して。

 だけど食べ物を口にする事はしない。

 いや、そもそも結界内には他の動物は近寄っては来ないし、狐がろくに食べる事の出来る物がないという方が正しいところなのだろうけれど。

 だけど狐は日に日に、痩せこけた体を肥やしていった。
 
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