渇望の鬼、欺く狐
 そしてそれは狐が私の傍に居着くようになり、一年程が経過した時だろうか。



『お前……尻尾が……』



 ある朝、狐を目にすれば、一本だったハズの尻尾が二本に分かれていたのだ。

 分かれた尻尾は狐の妖力を意味する。

 本来動物が妖力を携えるには、その動物の平均寿命の倍以上は生きなければならないハズだが。

 だけど狐は元々、結界をかいくぐり結界内へと侵入してきたのだから。

 この時の私は、やはりこいつは他よりも妖力が強かったのか、ぐらいにしか思ってはいなかった。

 そこから一年毎に尻尾の数を増やした狐。

 いつの間にか、狐の尻尾は四本にまで増えていた。

 悪かったハズの足は、気付いた時にはすでに治っていて。

 体が大きくなり尻尾の数を増やしても、狐の私に対する懐きようは変化を見せずに。

 私の顔を見れば擦り寄って甘えて。

 私が外を歩く際には、確実に後を付いて来る。

 もう不恰好な歩き方を曝す事はない。

 だけど川に辿り着けば、私に水を催促する。

 私もそんな狐に、水を掬って差し出して。

 いつしか、そんな過ごし方が当たり前となってしまっていた。

 
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