渇望の鬼、欺く狐
「俺ねー、あの時「あれ?」って思ってたんだー。だってさ、そんなわけないもん」



 中々核心に触れようとはしない狐に、鬼の苛立ちは募り膨らんでいく。

 それとは対照的に、狐は笑みの深さを掘り下げて。



「藍、旭が生まれてから一度も熱を出さなかったのは、体が強いからじゃないよ。俺の足が治った事と同じ理由」


「どういう意味だ?」


「ほら、やっぱり。藍は知らないんだね」



 いつの間にか、鬼が狐を映す視線は、強く睨む物へと変化していた。



「俺や旭はね、藍の瘴気を吸ってたんだ。瘴気は生物の体内を麻痺させるんだよ」


「瘴、気……?」


「そう。俺は瘴気を吸って、自分の妖力に変えた。お陰で、尻尾こんなに増えちゃった」



 鬼が、赤子の体を強いと口にした事。

 それは狐の心に、違和感を与え。

 そして。



『……お前は私の妖力を、無意識に吸い取ったんだろうね』



 狐は鬼に言われた、あの日の言葉を思い出したのだ。

 当時は気にもしていなかったけれど、鬼が赤子の体について瘴気の事を口にしなかったあの瞬間。

 そこに伴った違和感は、狐の中に疑問として当時の事を強く思い出させてしまった。
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