渇望の鬼、欺く狐
#11 鬼の過去
 顔を伏せて、地面を目に映しながら考える。



 ……あれから、何年経っただろう。



 考えたところで、もう数え切れぬ程にまで、時を過ごしてしまった。

 チラリと寄せた視線。

 そこに映るは、愛する息子の姿。



 ……丁度、あの時分だったか。



 始めて彼に――鬼に会った時は。

 遠い遠い記憶の彼方。

 霞がかる記憶を、出来るだけ鮮明な物として呼び起こそう。

 その思いから、静かに目を閉じさせた。


 たった今、訊ねられた通り。

 かつては私も人間だった。

 父が居て、母が居て。

 活発な子供だったように思う。

 女の子らしくしなさいと、そんな風に言われる事も何度もあった。

 家の手伝いよりも、探検が好きで。

 よく山の中に一人探検に出かけては、見かける動物たちや珍しい植物に興味を示す。

 私は、そんな人間だった。

 そしてそれは、あの日も同じ。

 一人、探検に出かけた時の出来事。
 
< 197 / 246 >

この作品をシェア

pagetop