渇望の鬼、欺く狐
山の中、急に降ってきた雨に慌てて。
すぐに大降りになった雨から逃れられる場所を、とにかく走る事で探した。
いつもの行動範囲では、大降りの雨を遮る事は出来ないと判断した私は、行動範囲を超えた場所まで足を運ばせて。
その社は、行動範囲の本当にほんの少しだけ先に存在していたのだ。
少し古い社は、幼い私を怯えさせるよりも、好奇心を煽ってしまう物だった。
扉を開けて、中に入り。
そして私は出会う。
『おや、客人とは珍しいね』
額から二本の角を生やした彼――鬼と。
『あ、あの……。ごめんなさい……、雨、降ってきて……』
『構わないよ。ここは別に、私の場所というわけでもないし』
思い出してみても、第一印象ですら彼に恐怖を抱く事はなかった。
その理由は多分、彼の表情が柔らかくて。
全てを包んでさえくれそうな包容力や寛容さを、子供ながらに感じてしまったからかもしれない。
そっと彼に近寄っても、彼は微動だにしない。
私の動向を見守るように、静かに微笑を携えていた。
『お兄ちゃんは……、ここで何してるの?』
私の質問に、彼は浮かべた微笑を崩す事もなく答えてくれたのだ。
『ずっと外の音を聴いてるんだ』
すぐに大降りになった雨から逃れられる場所を、とにかく走る事で探した。
いつもの行動範囲では、大降りの雨を遮る事は出来ないと判断した私は、行動範囲を超えた場所まで足を運ばせて。
その社は、行動範囲の本当にほんの少しだけ先に存在していたのだ。
少し古い社は、幼い私を怯えさせるよりも、好奇心を煽ってしまう物だった。
扉を開けて、中に入り。
そして私は出会う。
『おや、客人とは珍しいね』
額から二本の角を生やした彼――鬼と。
『あ、あの……。ごめんなさい……、雨、降ってきて……』
『構わないよ。ここは別に、私の場所というわけでもないし』
思い出してみても、第一印象ですら彼に恐怖を抱く事はなかった。
その理由は多分、彼の表情が柔らかくて。
全てを包んでさえくれそうな包容力や寛容さを、子供ながらに感じてしまったからかもしれない。
そっと彼に近寄っても、彼は微動だにしない。
私の動向を見守るように、静かに微笑を携えていた。
『お兄ちゃんは……、ここで何してるの?』
私の質問に、彼は浮かべた微笑を崩す事もなく答えてくれたのだ。
『ずっと外の音を聴いてるんだ』