渇望の鬼、欺く狐
『外の音?』


『そう。面白いよ。雨が降ると、雨が地面に当たる音がする。風が吹けば木の揺れる音がするし。晴れた日はね、動物が鳴く声も聴こえてくる』



 まるで彼の周りだけが、ゆったりと時を刻んでいる感覚。

 温かくて、触れてみたくて。

 彼の浮かべる微笑も、彼の紡ぐ言葉も。

 幼い私の興味を煽るには、十分過ぎたのだろう。



『君もここで聴いてみるかい?』



 その言葉に私は大きく頷いて、彼の隣へと腰掛けたのだ。

 普段から耳にしていたハズの雨の音は、何だかとても新鮮に思えた。

 どこかから聴こえてくる雨垂れの音は一定で。

 地面を打つ雨の音は不規則で。

 目には映らなくとも、こうして耳にしているだけで簡単に外の様子が想像出来る。

 新鮮な楽しさへ耳を澄ましていた私に、その声は届けられた。



『それより、君はこんなところで、何をしていたんだい?』


『うん? 探検!』



 一瞬目が見開かれたと思った彼の表情は、すぐに目尻が下がり。

 先程まで目にしていた微笑よりも、美しく優しいその表情に、無意識に自分の目は惹き付けられてしまっていた。



『そう。君は随分、お転婆なんだね』
< 199 / 246 >

この作品をシェア

pagetop