渇望の鬼、欺く狐
 狐が「それ」を私に見せたのは、そんな当たり前の過ごし方をしている時だったように思う。

 私の手から水を飲み終えた狐が、四本の尻尾を揺らしながらに私の着物を前足で叩く。



『何だい? まだ飲み足りないかい?』



 この頃になると、狐は私の言葉を理解するようになっていた。

 こちらからの問いかけに、狐は小さく首を振り。

 そして。



『……お、まえ……』


『えへへ、凄いでしょ?』



 狐は見事、人の姿に化けて見せたのだ。



『あのね、俺どうしてもお話したくて、ずっと練習してたんだ』


『これは……驚いたね』


『でも完全に人の姿になるのは、まだちょっと難しいね。あれすっごい妖力使うから。俺じゃ半人化で精一杯』



 その言葉に、頭に残った狐の耳と、四本の尻尾が背中の向こうから覗いている事に気付いた。



 
< 20 / 246 >

この作品をシェア

pagetop