渇望の鬼、欺く狐
翌日からというもの、私は足繁く彼の元へと通った。
並んで目を閉じては、外の音を耳に届ける日々。
会話は日に数回だけだったけれど、同じ音を耳に入れている事実だけで、自分の気持ちは満たされていたようにも思う。
『ねぇ、お兄ちゃん?』
『うん?』
『お兄ちゃんの名前、何て言うの?』
数少ない彼とのやりとり。
出会ってすぐの頃にかけた、彼への質問。
彼の名前を呼んでみたくて。
もっと仲良くなりたくて。
だけど、私に返された言葉は、期待とは外れた物だった。
『私には、名前なんて物はないんだ』
『え?』
『これまで、誰かに呼ばれるという事をした事がないからね』
そう口にする彼は優しくもあり、どこか淋し気でいて。
『あ……、だったら……』
勢いもあったと思う。
もっと仲良くなりたいと、その気持ちが強かった事もあるだろう。
『私が、お兄ちゃんに名前付けてあげる!』
名前を呼ぶ事が出来れば、それが叶うかもしれない、なんて。
あまりにも子供染みた発想だとは思うけれど。
並んで目を閉じては、外の音を耳に届ける日々。
会話は日に数回だけだったけれど、同じ音を耳に入れている事実だけで、自分の気持ちは満たされていたようにも思う。
『ねぇ、お兄ちゃん?』
『うん?』
『お兄ちゃんの名前、何て言うの?』
数少ない彼とのやりとり。
出会ってすぐの頃にかけた、彼への質問。
彼の名前を呼んでみたくて。
もっと仲良くなりたくて。
だけど、私に返された言葉は、期待とは外れた物だった。
『私には、名前なんて物はないんだ』
『え?』
『これまで、誰かに呼ばれるという事をした事がないからね』
そう口にする彼は優しくもあり、どこか淋し気でいて。
『あ……、だったら……』
勢いもあったと思う。
もっと仲良くなりたいと、その気持ちが強かった事もあるだろう。
『私が、お兄ちゃんに名前付けてあげる!』
名前を呼ぶ事が出来れば、それが叶うかもしれない、なんて。
あまりにも子供染みた発想だとは思うけれど。