渇望の鬼、欺く狐
『ねぇねぇ』


『何だい?』



 こちらの驚きを気に留める事はなく、狐はただただ嬉しそうで。



『あのね、俺お姉さん大好きだよ! だから、これからもずっと一緒に居てね!』



 そうしてかけられた言葉に、思わず溜息を漏らした。



『それは約束出来ないよ』



 私の周りを付き纏う狐に、諦めにも似た感情から、それを見逃してはいたけれど。

 私は未だ、狐を飼う意思を持ったわけではない。

 ここで頷いてしまえば、私は狐を飼うと認めてしまう事になるではないか。

 そんな私に対し、狐は人間の体を保ったまま強く抱き着いてきた。



『何で? ねぇ、お願い、そんな事言わないで? 俺、精一杯可愛くするから! ね?』



 抱き着きながら、頭を擦り寄せられたものの、正直体が大きくなってしまった為に、こちらの身動きが取り辛い。

 出来ればこの姿で甘える事は止めてもらいたい。



『悪いが、私はお前を飼うつもりなど欠片もないよ。社の前を寝床にする事も、出来れば止めてもらいたいね。こうして抱き着く事も』

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