渇望の鬼、欺く狐
 はっきりと告げてしまった理由は、その体が人間の物になってしまったからだろうか。

 動物の状態だと言い難かった事が、人間の状態だとあっさりと言えてしまう辺り、少なからず自分は狐にほだされていたのかもしれないとも思う。

 だけど、それこそが問題であるような気がした。


 他者との馴れ合いなどいらない。

 自分には必要ない。


 その思考は、自分の頭に根付く観念だったけれど。



『……やだよ』



 ポツリと耳に届く声。

 視線を向ければ、人間の姿を保つ狐は目に涙を浮かばせながらに、こちらへと視線を寄せていた。



『俺……、生まれつき足が悪くて……、起きたら家族誰も居なくなってて……。やっとの思いでここまで辿り着いたんだ』



 ……そんな事を私に言われても。



 そんな思考がよぎるも、狐は口を止める事はしなくて。



『途中、何度も他の動物に襲われそうになったり……。凄い大変だったんだよ……?』



 ……とりあえず体を離してもらえたら助かるんだけどね。



 その思考は、やはり狐へは届かずに。
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