渇望の鬼、欺く狐
『俺、お姉さんに会った時、正直このまま死ぬって思ったんだ』



 耳を掠めた声に、初めて会った時の事を思い出す。

 痩せこけた体と憔悴した目。

 あの風貌は間違いなく、狐の生命が朽ちかけている様を映し出していた。



『でもお姉さん、見惚れちゃうぐらい綺麗だったから。襲ってくる奴らから逃げ続ける事にも疲れてたし、それならお姉さんに殺されたいって思った』



 そこまで告げた狐は、また私へと頭を擦り寄らせた。

 頬に当たる薄茶色の髪がくすぐったいにも関らず、何となくそれを跳ね除ける気にはなれなかった。



『でも、お姉さん優しくしてくれたから。あの時はまだお姉さんが何言ってるのか、わからなかったけど。でも話しかけてくれた事も、頭撫でてくれた事も嬉しかった』



 あぁ、懐かせる要因は私にあったのか。



 それを理解したところで、きっと今更遅いのだろうけれど。

 どうしたものかと、溜息を吐く。

 抱き着いたまま離れようとしない狐は、未だ私に擦り寄っていて。

 最終的に出した私の結論は。



『……お前の言い分はわかったけど。でもそれが、お前を傍に置く理由になるわけじゃないよ』



「やはり狐を飼う事は認められない」だった。
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