渇望の鬼、欺く狐
#12 渇望の鬼、欺く狐
 地面に水滴が染みを作る。

 初めて目にした鬼の涙。

 その光景は、狐の手を鬼の体へと回らせた。



「藍……? どうして泣くの……?」



 どうして。



 それは鬼が狐に対して訊ねたい事その物だ。

 何故、それを狐が質問するのだろう。



 鬼の心情が狐に伝わる事はなく、狐は鬼の体に回した腕に力を込める。



「藍、泣かないで? 俺、藍が泣くところなんて見たくないよ」



 鬼へと擦り寄りながら、鬼の涙を舐め取る狐。

 狐の態度に、鬼の疑問が尽きる事はない。



「……っ、どうしてだ……」



 もう何度も狐へとかけた質問。



「どうして……、旭をあんな危険な目に遭わせた……?」



 しっかりと狐の目を見据えた鬼へ。



「……そんなの決まってるでしょ?」



 ようやく狐は、その答えを明らかにする。



「俺は、一瞬の幸せなんていらないからだよ」
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