渇望の鬼、欺く狐
「藍、いつか言ったよね? 旭は人間だから、ずっと一緒には居られないって」



 間延びした口調を見せないその言葉に、鬼はいつか狐へと向けた言葉を思い出した。



『ずっとずーっと、三人で一緒に居ようねー』


『……ずっとずーっとは、難しいんじゃないかい?』



 自分もそこに願望を抱きながら。

 現実を優先した、あの晩の出来事を。

 あまりにも短く儚い我が子の一生を、最期を迎える瞬間まで見守ろうと誓った事を。



「俺ね、あの時、凄く腹立ったの。だってそうでしょ? 俺は一瞬なんてやだよ。ずっとずーっと一緒がいい」



 自分の願望を、鬼なら受け入れてくれると信じていた。

 自分と同様、鬼も少年を愛している事を知っていたから。

 賛同を得る事で、気持ちを共有していたかったのに。



『……藍はそれでいいの?』



 足掻きとも取れる狐の言葉に対して。

 

『それでいいも何も。それが運命だからね』



 やはり鬼は、永遠を口にはしてくれなかったのだ。
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