渇望の鬼、欺く狐
 憤りを感じて社を後にしながらも、その晩、狐は鬼に対して取った態度を後悔する事となる。

 寝床である洞穴に戻ってみれば、鬼を睨み付けた自分の態度に、自責の念が襲うばかりで。

 鬼が望むのであれば、やはり自分も受け入れるべきなのかもしれない。

 後悔と共に、その思考すらも、狐の中には湧き上がっていた。


 鬼の瘴気を利用すれば、あまりにも短い一瞬の幸せを、伸ばす事が出来るに違いない。

 瘴気は体内を麻痺させて、悪い部分を治しては、成長を促すのだから。

 きっと上手く利用する事が出来れば、寿命すらも伸ばす事が可能だろう。

 ただ、自分は鬼の言う事には忠実でいようと、強く心に決めている。


 どちらを選ぶか、決める事が出来ないまま。

 どちらの考えも、心には残り続けて。

 だけど。



「ねぇ、藍。俺ね、本当に悩んだんだ。……でもね」



 少年は。

 狐に対して、口にしてしまった。



『俺、母ちゃんと同じぐらい、雪の事好きだもん!』



 狐の迷いを振り切らせる、その言葉を。

 孤独を痛感し、鬼と少年に依存した狐を受け入れる、その言葉を。



「……俺は、やっぱり一瞬じゃ満足出来ないから。旭にとっての永遠なんて、短すぎる。俺は俺にとっての永遠を、三人で居たいんだよ」

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