渇望の鬼、欺く狐
 身勝手すぎる狐の言葉。

 それを耳にした鬼は、思わず声を荒げていた。



「だから……、だから旭を危険に遭わせたのか?! 死んでたかもしれないのに!」



 怒りを露わにする鬼へ、微かに申し訳無さそうな表情を浮かべながらも、狐は視線を外そうとはしない。

 やがて首を横に振った狐は、静かに口を開いた。



「旭は死んでなかったよ」


「え……?」


「旭は藍が危険に遭うのを見たら、きっと覚醒するって思ってた。仮に覚醒しなかったとしても、その時は俺が助けてたよ」



 だから木の陰から覗っていたのだ、と。

 付け足すように、狐は告げた。



「どうしてそんな事が……」



 狐から覗える自信は、一体どこからきているのだろうか。



 浮かぶ思考から、鬼が無意識に漏らした言葉に反応するように狐は紡ぐ。



「だって旭は素直だから」



 純粋で素直で。

 濁りがなく、真っ直ぐな心。



「旭の素直さは、強い念を生むって思ってた」
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