渇望の鬼、欺く狐
 命を落とす事になった二人に、罪悪感ばかりを感じていた。

 自分にもっと力があったなら。

 そんな事を、幾度となく考えた。

 後悔と懺悔の念は、自身の命を繋げてもらった事に対しての感謝を忘れさせて。

 鬼は、ようやく気付いたのだろう。

 どういう生き方をしていく事が、二人から本当に求められている事なのかを。

 どういう生き方をしていく事が、二人への本当の償いになるのかを。


 少年と狐に腕を回した鬼には、もう躊躇いは見当たらずに。



「……旭、雪」


「うん?」


「母ちゃん、どうしたの?」



 鬼は、柔らかな視線で二人を見下ろしていた。



「これからも……。ずっとずーっと一緒に居よう」



 己の願望を叶える為。

 大切な存在をも欺いた狐と。


 人間という姿を失ったにも関らず。

 そこに備わる力を喜び、自分を守ってくれようと、渇望する鬼を。


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