渇望の鬼、欺く狐
『藍?』


『そう』



 復唱した狐に頷けば、狐は静かにこちらを見つめ。

 なのに次の瞬間には、クスクスと笑い声を漏らした。

 疑問を視線で伝えれば、狐は再度口を開く。



『あ……ごめんね? 悪い意味じゃないんだ。ただ……』



 少しはにかんだ狐が紡ぐ、先の言葉。



『お姉さんに、凄く良く似合う名前だって思ったから』



 目の前に居る狐に対して、心のどこかで面倒臭いと感じていた心情。

 それをこんな。



『ほら、お姉さんの髪、凄く綺麗な藍色だから』



 たかだか名前を褒められたぐらいで。



 ――ほら、お前の髪はとても綺麗な藍色だから。この名前が良く似合うだろう?



 脳裏によぎる声と重なったからと言って。



『……そう言ってもらえると嬉しいよ』



 気持ちが微かに浮きだってしまう自分は、きっとどう仕様も無い。




 
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