渇望の鬼、欺く狐
『あ、あのね……?』



 次から次へと表情を変えながらも、その視線が私から外される事はない。

 今度は何だと思いながら先を促せば、狐は少し躊躇いながら口にした。



『あの……、俺も、その……』



 少しずつ萎んでいく言葉尻。



『名前……欲しい……』



 最後の声は、聞こえるか聞こえないかぐらいのか細い物だった。

 きっと名前を与えられる事に、大きな期待を抱いているのだと思う。

 とは言え。



『欲しいなら、自分の好きな名前を付けたらどうだい?』



 私は『勝手に付き纏う分には構わない』と言ったのだから。

 名前など与えてしまえば、それこそ飼い主になってしまうではないか。

 わかりやすく項垂れた狐だけれど、先程と同じく狐はしつこかった。



『俺、お姉さんに名前付けてもらいたいんだよ』


『そんな飼い主みたいな事をする気はないよ』


『お願い、名前付けてもらったぐらいで、お姉さんの事飼い主なんて自惚れたりしないから!』
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