渇望の鬼、欺く狐
 どうにも狐の言葉が、疑わしく思えてしまう理由は何だろう。

 そう思いつつも。



『……藍』



 ポツリと漏らされた私の名に。

 こちらを見上げる縋る視線に。



『……だったら雪』



 溜息を漏らしながらも提案してしまう自分は、本当にどう仕様も無い。



『雪……』


『そう。今、丁度、雪が降ってるから。お前は雪みたいに肌も白いし、似合うだろうと思って』



 正直な事を言えば、適当に目に映った物を口にしただけの事だった。

 そこにこじつけて、理由を挙げただけだ。

 なのに狐はまた、嬉しそうにその口元を綻ばせて見せる。



『藍、ありがとう! すっごく気に入った!』


『だから苦しいと言ってるのに』



 再び抱き着いてきた狐をたしなめても、その体が離れる事はない。

 色を薄めていたハズの面倒臭さが、また自分の中に浮かび上がっていく。

 もう、いっその事、狐が満足するまで放っておこうと、たしなめる事を止めてしまった。

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