渇望の鬼、欺く狐
『それはそうと。お前は生まれつき妖力が強いのかい?』



 出会った時にあれだけ衰弱していたにも関らず、今日までしっかりと生き延びている。

 それどころか、どんどんと体を肥やし、今では骨が浮き出る事もなくなった。



『うん? 藍のおかげでしょ?』



 首を傾げながら返してきた狐――雪に、こちらまで浮かべる事となった疑問。

 それに気付いたようにして、雪は先を続けた。



『俺ね、藍に会った時、本当に死にそうだったんだ。もう、何日も飲まず食わずだったし』


『だろうね』


『でもこう……、何て言うのかなぁ。藍の近くに居ると、勝手に体が元気になったと言うか。ご飯とか食べなくても平気になったし』



 雪の言葉から推測すると恐らく。



『……お前は私の妖力を、無意識に吸い取ったんだろうね』



 鬼である私の妖力は、妖力を持つ動物たちよりもはるかに強い。

 自分では気付いてはいなかったけれど、きっと普通に生活しているだけで、妖力を放ってしまっているのだろう。

 そしてその妖力を私の傍に居る事で吸い取り、自分の妖力へと変えた雪は、結果的に今日まで生き延びた。

 尻尾を四本に増やし、人化の術を覚える程にまで妖力を蓄えて。

 
< 29 / 246 >

この作品をシェア

pagetop