渇望の鬼、欺く狐
 慌てて社へと戻り、扉を開けて思わず疑った自分の目。



「旭……? お前……」



 扉を開けた先。

 そこには盛大に泣き声を上げながら、うつ伏せになる旭が居て。

 疑問は旭がこちらへと顔を向けた時に、真相を知る事となる。



「あ、あー、うあー、あ、」



 泣き止み、こちらへと這ってきた旭。

 その手が私の着物に辿り着く前に、私は自分の手を旭へと伸ばしていた。



「這えるようになったのかい?」



 抱き上げれば、旭はしがみつくように私の着物を掴む。

 こちらを見上げて指をしゃぶりながら、どこか満足気な顔を浮かべて見せた。



「……私が居なくて淋しくなったのかい?」



 訊ねたところで、答えてくれるわけではないけれど。

 ただ、自分の顔を見て泣き止んだその行動に、答えはある気がして。



「お前も……一緒に飯を作ろうか」



 何となく旭を社の中に戻す事に覚えた抵抗。

 旭を抱きながら、かまどの元へと戻る事となった。
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