渇望の鬼、欺く狐
 粥が炊き終わるまでを旭を抱いて待っている間、旭は何度も何度も私の顔をぺちぺちと叩いていた。

 何がそんなに楽しいのか、先程と同じように、きゃっきゃと笑い声を上げながらに。



「私の顔なんて叩いても、楽しくないだろう?」



 問いかけたところで、旭の手が止まる事はない。

 ふいに伸びた旭の手が、角に触れた。

 ギュっと握り締められた事が感覚でわかったけれど、これまで角を誰かに触れられた事などなかったから、どうしていいかわからずに。

 だけど旭は未だ楽しそうな笑い声を上げるから。



「……えぇと。握ってたいのかい?」



 何となく遮る事も悪い気がして。

 初めて触れられた角から伝わる圧迫は、痛くも痒くもなく。

 ただただ、胸の奥にむず痒さを感じさせた。


 その後、粥が出来上がり、器に入れて旭と共に戻った社。

 角を握られた状態だと、顔を少し下げなければいけなくて、体勢に少々苦しさを感じていたものの。

戻る際には大人しく抱かれてくれた事に、幾分かの安堵を覚える事となった。
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