渇望の鬼、欺く狐
「ほら、お食べ」



 旭を膝に乗せて、十分に冷ました粥を匙で掬い口元へと運ぶ。

 躊躇いなく口に入れては、すぐにまた次を強請るのだから、肉付きが良くなる事も当然と言えるのだろう。



「ちゃんと噛むんだよ」



 笑う度に覗かせる、上下二本ずつの乳歯。

 粥なんかに噛める程の固さがない事ぐらい、理解しているハズなのに。

 それでも、こんな風に声をかけてしまう理由は、一体何だと言うのだろうか。

 器の中身を後一口分残したところで、旭は粥を口に入れなくなった。

 もう満足を得た事を知り、器を下に置けば、旭は膝の上でこちらを振り返り、小さな手で私の胸元を叩いて見せる。

 強請られている物を理解して、緩めた帯。

 胸元を露わにすると、旭はすぐに強い力で胸に吸い付いた。

 この一ヶ月の間に、旭は飯を済ませれば乳まで強請るようになっていて。

 最初の頃はどうしたものかと悩んだものの、あまりにも強請ってくるので試しに吸わせてみれば、そのまま眠りについてしまったのだ。

 母乳など私からは出ないのに、とりあえずは旭は吸えればそれで満足らしい。

 それ以来こうして強請られれば、吸わせるようになってしまっていた。



「出ない乳を吸って美味しいのかい?」



 少しずつ下がる瞼は、旭が眠る事を意味しているのだろう。

 やがて予想通り眠りについた旭を、布団の上に寝かせて。

 着物を正してから、自分もその隣へと横になった。

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