渇望の鬼、欺く狐
 そして嬉しさを期待する感情は、私の中から一つの欲求を生み出していく。



 旭に認識してもらえる事。

 それはこんなにも胸を満たして。

 名を呼んでもらえる事も同様に。

 だけど、もう少しだけ。



「あ、さひ……」



 欲を出すなら。



「……母さんだよ」



 旭に。

 

「……私がお前の母さんだ」



 そんな風に呼ばれてみたかった。



 小さな体を抱きしめれば、旭は嬉しいのか楽しいのかまた笑って。

 その笑顔を見た時に。

 口に出した要望は、自分の中で決定的な物として確立された気がした。

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