渇望の鬼、欺く狐
 その後。

 歌を歌ったりと、旭の気を引いて時間を過ごしていれば、不服そうな表情を浮かべた雪が社へと戻ってきた。



「はい」


「すまないね、ありがとう」



 雪に手渡された物は、鮮やかに彩られた鞠だった。

 それを旭の方に転がしてやれば、旭は見事なまでに食いつきの良さを発揮して見せる。

 拾い上げては転がし、拾い上げては転がし。

 外を歩いている際には、何かを見つける度に指を差して教えてくれるにも関らず、よっぽど興味が集中しているのか、それすらもしてくれない。



「気に入ったみたいだよ。ありがとう」


「感謝してよねー。人里であいつと同じぐらいの子供が何で遊んでるか、確認してから買いに行ったんだからー」



 渋々行った割には、きちんと調べてくれたのか。



 雪の配慮には、本当に感謝しなければならないだろう。

 その感謝の示し方は。



「疲れたー。藍、寝かせてー」



 雪の中では、すでに決定されているようだけれど。

 私の膝に頭を乗せて寝転んだ雪の髪を撫で付けてやれば、すでに雪は不服そうな顔を浮かべてはいなくて。

 代わりに、穏やかでいて満足気な顔を浮かばせていた。
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