渇望の鬼、欺く狐
 狐は勿論抵抗の意を示した。

 にも関らず。



『頼むよ。後でたくさん撫でてやるから』



 結局のところ、狐は鬼に甘やかされる事に弱い。

 自分から鬼に甘えて縋るよりも、鬼が自主的に甘やかしてくれる方を選んでしまう。

 それに何より。



「あーうー……、あー!」



 狐は鬼の要望を全て受け入れ、叶えてやりたいと考えている事も事実だった。

 そうすれば、きっと鬼は自分を褒めてくれる。

 撫でてくれる。

 愛してくれる。

 そんな思考を狐は携えていたから。

 とは言え。



「……てめぇ、ふざけんな。それ今、俺が畳んだばっかだろ」



 目の前で労力を無駄にする行動を喜ぶ赤子が、やはり腹立たしい。

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