渇望の鬼、欺く狐
 赤子が散らかす物を必死に片付けても、すぐにまた散らかされてしまう。

 室内に胡坐をかいて、肩肘を付いた狐は考えた。



 ……藍はいつ戻ってくるんだろう。



 飯を作ると言っていたから、そんなに時間はかからないだろうと予想する。

 長く見ても、後一時間程だろうか。

 だとすれば、無駄に労力を使うよりも、鬼が戻ってきてから一気に片付けた方が効率が良いかもしれない。

 理由を説明すれば、室内が散らかっているぐらいでは鬼も怒るまい。



 ……いや、でも、戻って来た時に散らかってない方が、褒めてもらえるかも。



 狐が頭の中で天秤をかけていれば、ふいに視界には赤子が映る。

 自分の前に立ちはだかり、ジっとこちらを見たと思えば、赤子はドカっと腰を下ろした。



「……何やってんの、お前」



 座りこんだ赤子は、下手な胡坐をかいて肩肘を付いて見せて。

 それはまるで、狐の真似で。

 狐を指差してきゃっきゃと笑った赤子に、狐の苛立ちはついに振り切れてしまった。


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