渇望の鬼、欺く狐
「あぁ、もう! 悪かったって! 頼むから泣き止んでくれよ!」



 焦りばかりが狐を取り巻いていく。

 一体、何の仕打ちだと言うのだろう。

 人間の赤子を抱く事など、不本意極まりないというにも関らず、こうして抱いてやってるのに。

 余計な事しか出来ないなら、せめて泣き止むぐらいしてくれたって良いではないか。

 泣かせてしまった理由は自分にあると理解していながら、狐はそんな事を思って。



「も……、泣きたいのはこっちだよ……」



 弱音を吐いたところで、赤子の泣き声にかき消されてしまうだけだけれど。

 どうしようどうしようと、狐は考える。

 謝っても駄目、抱いても駄目なら後は。



「あー……、えぇと……、よし、見てろよ?」



 赤子を室内に降ろした狐は、そのまま赤子の目の前で本来の獣の姿に戻って見せた。

 途端、赤子は泣き止み。



「あー……、あー、うーう、あー」



 興味津々に顔や体を、その手でぽんぽんと叩き出す。

 泣き止んだ事に心底安堵した狐が、再び人化の術を施して半人化の姿を取れば、赤子からは不満気な声が発せられた。
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