渇望の鬼、欺く狐
 どうして、こんなにも赤子の存在が気にかかるのだろう。

 赤子の存在は、自分と鬼の仲を裂く存在と言っても、過言ではないにも関らず。

 どうして。



「ふあふあ! ふあふあ!」



 その要望に応えるように、何度も尻尾を揺らしてしまうのだろうか。

 先日は鬼の機嫌を損なわないようにと、それだけが理由だったように狐は思う。

 なのに今日は少し違う気がして。

 あの日から胸の奥に突っかかっている何かが、どうにも気持ち悪い。

 その何かが何なのか。

 知りたいと思う気持ちと。

 知る事から、逃げてしまいたくなる気持ち。

 両極端な気持ちは絡まり合って、狐の胸中に残り続けていた。



「ゆーゆ! ゆーゆ!」



 尻尾から顔を覗かせた赤子は、狐の耳を指差して口にする。



「耳か? 耳はくすぐったいから駄目だからな」


「んー! ゆーゆ、ゆーゆ!」



 まるで強請るかのような声。

 大きく溜息を漏らした狐は、それでも自分の手を赤子へと伸ばしていた。


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