渇望の鬼、欺く狐
 狐の手が赤子の手に触れる。

 初めて目にした時よりも多少大きくなったものの。

 それでも尚、その手は小さくて柔らかい。

 狐が手を引く事で誘導すれば、赤子は体勢を崩しながらも狐の膝の上に立って見せた。

 満足気な笑い声を漏らしながら、赤子の手が狐の耳を撫でては掴む。

 赤子が転げ落ちてしまわぬよう、狐は自分の手を赤子の背中へと回した。

 そこから伝わる、全てが先日と一致している感触。

 小さくて狭くて。

 それでいて温かい。

 手を離してしまいたい衝動。

 手を離す事への躊躇い。

 胸の奥でくすぶり続ける何かが、気持ち悪くて堪らない。


 自己の感情を理解出来ずに苦しむ狐をよそに、赤子はただただ機嫌良く狐に触れる。

 やがて何を思ったか、赤子は狐の耳から手を離して。



「ゆーゆ」


「え? ……っ、おい……」



 しがみつくように、狐へと抱き着いて。

 狐が咄嗟に、赤子の背中を支える手に力を込めた時。

 狐の中で絡まり合っていた全てが、一本の糸となり繋がってしまった。



 
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