渇望の鬼、欺く狐
 木陰に腰を下ろし、二人のやり取りを見ていれば、それだけで気持ちは穏やかになれる。

 旭は日に日に大きくなるようで。

 最近では言葉の数も増えた。

 歩き方も、以前よりもしっかりしてきた。

 時折走って見せる姿は、やはりまだまだ覚束ないけれど。



「かーちゃ! かーちゃ! はい!」



 買出しから戻った雪が、いつも私に土産を渡す事を真似しているのか。

 こうして何かを見つける度に持って来てくれる姿は、何とも微笑ましい。



「ありがとう。大事にするよ」



 受け取れば、旭は満足気に笑って川の方へと戻っていく。

 急いだ為に躓いた足。

 途端派手に転んだ旭に「あ……」と漏らす前に、その声は届いた。



「旭!」



 声を上げて泣く旭の元へ、すぐに駆け寄る雪の姿。

 躊躇いもなく旭を抱き上げて、心配そうな視線を旭へと送って。



「大丈夫か?」



 その視線と同じく、心配そうな声を旭へとかける雪と、何とか泣き止みながら雪にしがみつく旭。

 本当に。

 いつからこんなにも打ち解けたのだろう。
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