渇望の鬼、欺く狐
「そろそろ上がるか?」


「いやー」


「でも、そろそろ昼寝の時間じゃねぇの?」



 ……昼寝の時間まで把握してるのか。



 ここまで来れば、最早感心よりも驚きの方が上回ってしまう。

 いやいやと首を振る旭を片手で抱き上げ、こちらに戻ってきた雪は、持ってきていた布で旭の体を拭いた後、そのまま旭に着物を着せてやっていた。

 そこまで終えてから、自分の足を拭いて捲っていた着物を正した雪が、青々とした草に背中を預ければ、それと同時に微かな風が通り抜けて。

 頬を撫でた風から心地良さを感じ取る。

 いつの間にか、日常と化した光景。

 流れる時間は、あまりにも平和を思わせていた。



「ほら、旭も寝んぞ」


「いやー! ばしゃばしゃ!」


「起きてからな」


「いや!」



 きっと遊びたい気持ちが強いにも関らず、体は疲れているのだろう。

 駄々を捏ねる原因は、旭が眠たいからだろうと理解する。

 そんな旭に向けて雪は一つ溜息を漏らし、「仕方ねぇな」と口にした。

< 70 / 246 >

この作品をシェア

pagetop