渇望の鬼、欺く狐
 旭の前で本来の姿に戻った雪が、旭の顔を何度も舌で撫で付ける。

 あんなにも首を横に振っていた旭は「あ……」と漏らしながら、次の瞬間にはその体に抱き着いていた。



「ふあふあ! ふあふあ!」



 狐の姿を取った雪の体に、顔を押し付けて楽しそうに笑って。

 そんな旭の顔を、また雪は舌で撫で付けて。

 そのまま再度草の上に雪が寝転べば、旭は少し首を傾げながらに雪を目に映す。



「旭。雪がふわふわのまま、一緒に寝てくれるみたいだよ」



 教えてやれば、旭は嬉しそうに顔を綻ばせて、雪の隣へと仰向けになった。

 仲の良い二人が微笑ましくて堪らなくて。

 自分もその中へと入り込みたくて。

 旭が真ん中にくるように、自分も草の上へ横になり立て肘を付けば、眼下には毛並みの整った本来の顔と、無邪気なあどけない顔。

 順番に髪を撫でてやれば、嬉しそうに笑って見せた二人に。

 満ち足りていく気持ちを感じて、自分もそっと瞼を閉じた。

 

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