渇望の鬼、欺く狐
 旭の我儘にも根気良く付き合って。

 旭が転べば駆け寄る。

 泣けば躊躇いなく抱き上げて。

 そんな雪に旭もまた「抱っこ」とせがむまでに懐いていて。

 仲の良い二人を見ながら、僅かに淋しさを感じてしまったけれど。



「今はねー、いいんだー。旭寝てるからー。好きなだけ藍に甘えても許されるのー」


「元々誰も怒ったりしないよ」



 こうして雪は以前と変わりなく甘えてくるから。

 旭も。

 雪に抱かれながら、こちらへと手を振ってくれるから。

 それならそれで構わないのかもしれない、と。

 そんな風に思えてしまった。



「それにしても、最近旭と仲が良いね」


「うん。あ、もしかして妬いてるー?」



 雪の言葉にようやく気付く。



 あぁ、私は妬いていたのかもしれない。



 互いに私だけを求めていた雪と旭が、他に目を向けた事に対して。

 甘えて擦り寄る事よりも、旭の面倒を見る雪に。

 私に抱かれる事よりも、雪に抱かれる事を選んだ旭に。


 理解してしまえば、それは何とも単純でいて下らない感情だった。
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