渇望の鬼、欺く狐
 とは言え。

 今はその感情を持て余す事もなく、仲の良い二人を認める気持ちが自分の中に存在しているのだから。



「……そうだね。少し妬いてたよ」


「え?」


「でもまぁ。二人が仲が良いのを見てると、嬉しくなるから。これからも、旭の面倒を見てやってもらえると助かるよ」



 心を取り巻く心地良い温度を、雪を撫でる事で実感していたい。



「……俺と旭が仲良いと、藍は嬉しいの?」


「あぁ。二人とも、私にとって大事な存在だからね。大事な二人が仲良いと嬉しいよ」



 綻んで崩れていく表情。

 下がる目尻も。

 噛み締めるように噤ませながら、徐々に持ち上がる口元も。

 それらは雪の気持ちが満ちている事を、顕著に表していた。



「藍、大好きだよー。俺、今度また藍にかんざし買ってくるねー」


「かんざしはもう、たくさん貰ったよ?」


「でもあげたいんだよー」



 きっと近いうちに増えるのであろうかんざしを、楽しみに思いながら。

 しがみつき擦り寄る雪の髪を、整えるようにして撫で付けた。
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