渇望の鬼、欺く狐
「あのね、藍。旭もきっと、俺みたいに甘えたになると思うよー」



 嬉しそうな声を紡いで雪が告げる。



「だってほら。旭は俺が藍に甘えるところだって、何回も見てるもんね」



 あれ程にまで、旭に対して敵対心を抱かせていた雪だけれど。

 今では旭を、自分の弟ぐらいに思っているのかもしれない。



「二人から同時にこんなに甘えられてしまっては、私も大変になるね」


「……嫌?」



 その答えは勿論。



「構わないよ」



 視線を向けた先。

 気持ち良さそうな寝息を立てたままに、旭は眠っている。

 今はまだ、あんなにも小さいけれど。

 きっと上手に走れるようになる事も、飛び跳ねる事が出来るようになる事も、あっと言う間なのだろう。

 少し前までは、立ち上がる事すら出来なかったのだから。

 それは本当に、あっと言う間にこなされてしまったのだから。



 



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