渇望の鬼、欺く狐
「俺やっぱり寝ようかなー」



 ふいにそんな事を口にした雪に、訊ねずには居られなかった。



「眠れるのかい?」


「んー、どうだろうね。でも目瞑って、横になってるだけで十分かもー」



 確かに夜はまだまだ続く。

 今は深く眠っているとは言え、こうして雪と会話をしていればそのうち旭が起き出してしまうかもしれないし。



「藍も一緒に横になろー?」



 私を誘う雪の言葉。

「そうだね」と返してから旭の近くへと横になれば、しっかりと雪に抱き着かれた。



「お前は本当に甘えただね」


「うん。俺ねー、旭には甘やかしてやりたいと思うけど、藍にはいつまでも甘えたいんだー」



 そう言って胸元に顔を埋める雪の髪を撫で付ける。

 ふわふわと揺れる尻尾から、何となく雪の嬉しい気持ちが伝わった気がして。

 指通りの滑らかな髪を撫でたままに、そっと自分の瞼を閉じた。


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