渇望の鬼、欺く狐
「もう少し、派手なのない?」


「おや、これはお気に召しませんか?」



 気に入らない、というわけではない。

 ただ、鬼に贈るには値しない。

 何となく、狐はそんな事を思った。



「とびきり目立つやつが欲しいんだ」



 あの藍色に浮き立ち、存在感を醸し出してくれるような。

 自分が贈った事を誇示出来るような。

 そんな目立つ物が。

 まぁ、誰に見せ付けたいわけでもないけれど。

 ただ、敢えて言うとすれば自分に。

 鬼へかんざしを贈ったと、目に映す度に何度でも確認出来るように。



「旦那に惚れられた方は幸せですね」



 愛想良く笑って店主が店の奥へと入る姿を、狐は穏やかな気持ちで眺めていた。

 その後店主が持ってきたかんざしは、先にとんぼ玉があしらわれていた物。

 赤、黄、青の原色が美しいそれら三本のかんざしは、すぐに狐の目を惹き付けた。



「いかがです?」


「……いいね」



 きっとどれを挿しても、あの艶やかな藍色に良く映える。
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